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大阪高等裁判所 平成元年(行コ)40号 判決 1990年6月28日

控訴人 小上健一

被控訴人 宇治税務署長

代理人 山本恵三 堀秀行 ほか二名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人に対し、いずれも昭和六一年七月四日付でなした控訴人の昭和五八年分ないし昭和六〇年分の所得税更正処分のうち、原判決別表1の各年分の各確定申告欄の総所得金額を越える部分を、いずれも取り消す。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

二  当事者の主張

次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する(但し、原判決二枚目表五行目の「新聞販売店を営む者であるが」を「新聞販売店を営み、所得税の確定申告につきいわゆる白色申告をしている者であるが」と改め、同三枚目表一行目の「原告の同意」の前に「次回の話し合いまでは反面調査を差し控えるとの約束が存在したのに、」を加える。)。

1  控訴人の主張

(一)  調査の必要性について

税務調査を行うには、「客観的な必要性」があることを要するにもかかわらず、単に「本件係争各年分の確定申告書の記載不備(所得金額の記載はあるものの、その計算根拠となる収入金額及び必要経費の記載を欠く)」を理由に本件税務調査を行った。

しかしながら、所得税法一二〇条によると、申告書には所得金額の記載は要件となっているが、収入金額や必要経費の記載は要件となっておらず、所得税法の規定に従って行った確定申告書の記載自体が調査の唯一の「客観的な要件」になるはずはないから、本件調査はその開始にあたって「客観的な必要性」を欠く。

(二)  理由の告知について

控訴人は税務調査に対して非協力的であったとはいえない。

調査を行うにあたっては、被控訴人においてその理由を告げることにより控訴人の理解と協力を求めるべきであったのに、調査の理由を全く告げることなく、民商退会に関するやりとりに終始したのであって、控訴人としては税務調査の際、協力のしようがなかったといえるから、調査に非協力的であったとして税務調査の必要性を肯定することはできない。

2  被控訴人の主張

(一)  調査の必要性について

そもそも、税務調査をいかなる場合になすべきかは、課税庁が法定の処分をなすための認定判断に必要と考えた範囲内において適宜職種により行い得るものである。

しかも、控訴人が提出した本件係争各年分(昭和五八年分ないし同六〇年分)の確定申告書には、所得金額算定の基礎となる「収入金額」及び「必要経費」の記載がなかったことに加え、右申告額は控訴人の昭和五五年分ないし同五七年分の修正申告にかかる所得金額に比し、著しく過少であったことからしても、調査を開始する客観的な必要性が存したことは明らかである。

(二)  理由の告知について

税務調査は、申告の真実性、正確性を確かめるために行いうるものであることからすると、被調査者(控訴人)に開示する調査理由も「所得の確認のため」等概括的理由で足りるというべきであるし、また、具体的調査理由の開示がなされなかったからといって、直ちに、これに基づいてされた本件各処分が違法となるものでもない。

(三)  反面調査について

なお、被控訴人は控訴人との間で、次回の話し合いまで反面調査を差し控える旨の約束をしたことはない。

三  証拠 <略>

理由

一  次のとおり付加するほか、原判決の理由と同じであるからこれを引用する(但し、原判決九枚目表八行目「離脱をしようしよう」とあるを「離脱の勧告をしようと」と訂正する。)。

1  原判決八枚目表六行目「<証拠略>」の次に「<証拠略>」を加え、同末行目の「のであり、」の次に「控訴人の修正申告後の所得金額欄の記載は昭和五五年分で五七四万一二三二円、昭和五六年分で七一七万九三四〇円、昭和五七年分で五七九万六二四九円であったのに対し、本件係争各年分の申告額は昭和五八年分三八七万七五〇〇円、昭和五九年三六五万一三〇〇円、昭和六〇年分三九四万一二〇〇円と大幅に減少していたこと、」を加える。

2  同裏六行目の次に「なお、控訴人は確定申告書に所得金額を記載すれば、税務調査を開始する客観的な必要性を欠くと主張するが、所得税法一二〇条一一号に規定されている「計算の基礎」には売上額や必要経費等も含むと解されるから、これらについての記載も義務付けられているものと解すべきであり、これらを欠く控訴人の申告書は不適法なものであったと認められるし、仮に控訴人の申告書が適法なものであったとしても、税務署長は、適正な租税申告の真実性、正確性を確かめるために税務調査を行い得ると解すべきであるから、控訴人の主張は理由がない。」を加える。

3  原判決九枚目表五行目「供述部分がある」を「供述部分があり<証拠略>にもこれに沿う部分がある。」と改める。

4  同裏六行目「認められ」の次に「、しかも、<証拠略>によれば、被控訴人部下職員は調査の客観的な必要性があるものと判断して、本件調査を実施したことが認められる。」を加える。

5  同九行目「3」の「したがって」の前に「控訴人は、調査を行うに際して被控訴人が調査の理由を告げなかったから、控訴人としては協力のしようがなかったと主張するが、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知は質問検査を行ううえで、法律上一律の要件とされているものではなく、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解せられるから、仮にこれを告知しなかったとしても、本件調査が違法であるとはいえず、またそのことが控訴人の協力を阻害したとも解し難いのであって、控訴人の右主張は理由がない。

次に、反面調査をしないとの合意が成立したとの控訴人の主張であるが、原審における控訴人本人及び当審証人石元寿一は右合意が成立した旨供述するが、原審証人千井学の証言及び弁論の全趣旨に照らして信用し難く、他に右合意の成立を認めるに足る証拠はないから、右控訴人の主張は理由がない。」を加える。

6  原判決一〇枚目裏四行目と五行目との間に「1 昭和五八年分の仕入金額が四〇六二万九四三七円、同五九年分が四一七一万二三九三円、同六〇年分が四三三五万八〇一四円であることは当事者間に争いがなく、原審控訴人本人尋問の結果によれば控訴人は本件係争各年を通じて新聞小売業(主として一般紙を扱っている者)を営んでいる者であって、その他の業種目を兼業していないことが認められる。」を加える。

7  同五行目「1」を「2」に、原判決一一枚目表九行目「2」を「3」に改める。

二  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件各控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却し、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田眞 福永政彦 古川行男)

【参考】第一審(京都地裁昭和六二年(行ウ)第三九号 平成元年九月一日判決)

主文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 原告

1 被告が、原告に対し、いずれも昭和六一年七月四日付でなした原告の昭和五八年分ないし昭和六〇年分の所得税更正処分のうち、別表1の右各年分の各確定申告欄記載の総所得金額を超える部分を、いずれも取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二 被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一 原告(請求原因)

(一) 原告は、肩書住所地において新聞販売店を営む者であるが、いずれも別表1各所定欄記載のとおり昭和五八年ないし昭和六〇年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税の確定申告を、それぞれ法定申告期限までに申告したところ、被告は、原告に対し、昭和六一年七月四日、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

原告が、右の更正処分及び過少申告加算税賦課処分について、被告に異議申立をしたところ、被告は、各原処分の一部をいずれも取り消す決定をした(以下、右一部取り消しの審査決定により減額された額による昭和六一年七月四日付更正処分を、本件各処分という)。

原告は、本件各処分及び過少申告加算税賦課処分に対し、国税不服審判所長に審査請求をしたが、同所長は、審査請求を棄却した。

以上の経緯は別表1に記載のとおりである。

(二) しかし、本件各処分は、次の違法な税務調査に基づくものであるから、違法である。

(1) 調査理由がないにもかかわらず調査を行なった。

(2) 原告の同意を得ないままいわゆる反面調査を行なった。

(3) 本件調査は、原告を民主商工会から脱会させることを目的として行なわれ、調査に際して執拗に脱会工作がなされており、憲法三一条、二一条に違反する。

(三) また、本件各処分は、原告の所得を過大に認定した違法が存する。

(四) よって、原告は、被告に対し、本件各処分の取り消しを求める。

二 被告(答弁・被告の主張)

1 答弁

(一) 請求原因(一)の事実を認める。

(二) 同(二)、(三)を争う。

2 被告の主張

(一) 被告は、原告が提出した本件係争各年分の所得税の確定申告書が、いずれも所得金額算定の基礎となる収入金額及び必要経費の記載を欠くものであつたため、昭和六一年四月九日以降七回にわたり所属職員を原告方へ赴かせたが、原告は第三者の立会を求めるなど調査に協力せず、帳簿書類の提示に応じなかったため、やむを得ず反面調査のうえ推計課税により本件各処分を行なつたものであり、本件各処分に手続的瑕疵はない。

(二) 原告の本件係争各年分の事業所得金額及びその計算内容は、別表2に記載のとおりであり、その科目別明細は、次のとおりである。

(1) 売上原価

別表3に記載の仕入金額を売上原価とした。

(2) 売上金額

前記(1)の各売上原価を、別表4ないし6に記載の同業者の売上原価率(売上原価の売上金額に対する割合。小数点第三位以下切上)の平均値(以下「売上原価率」という)で除して算出した。

(3) 算出所得金額

前記(2)の各売上金額に、別表4ないし6の同業者の算出所得率(算出所得金額の売上金額に対する割合。小数点第三位以下切捨)の平均値(以下「算出所得率」という)を乗じて算出した。

(4) 人件費(雇人費額及び外注費額の合計額)

前記2の各売上金額に、別表4ないし6に記載の同業者の人件費率(給料賃金額、外注費額及び配偶者以外の専従者給与額の合計額の売上金額に対する割合。小数点第三位以下切上)の平均値(以下「人件費率」という)を乗じて算出した。

(5) 建物減価償却費

原告及び原告の妻の共有する店舗(宇治市五ヶ庄新開一四番地の七二)について、本件係争各年分とも左記のとおり算出した。

取得価額<1>            一、八五〇万円

残存価額<2>              一八五万円

償却額<3>             一、六六五万円

耐用年数(木造瓦葺)             二四年

償却率<4>               〇・〇四二

事業専用割合<5>              〇・四

経費算入額<3>×<4>×<5> 二七万九、七二〇円

(6) 利子割引料

前記(5)の店舗を購入した際に、南京都信用金庫黄檗支店から借り入れた金員に対する支払利息(昭和五八年分一三三万一、二七一円、昭和五九年分一三〇万二、八六四円、昭和六〇年分一二七万一、七三八円)にこの建物の事業専用割合(〇・四)を乗じて算出した金額である。

(7) 事業専従者控除額

原告の妻に係る事業専従者控除額である。

(三) 推計の合理性について

(1) 大阪国税局長は、原告の事業所所在地を所轄する被告に対し、青色申告により所得税の確定申告をしている者のうち、本件係争各年分を通じて、次の<1>ないし<6>の条件をすべて満たす者を抽出するよう指示し、被告は、別表4ないし6に記載のとおり一八名の同業者を抽出した。

<1> 新聞小売業を営んでいる者で、主として一般紙を扱っていること。

<2> <1>以外の業種目を兼業していないこと。

<3> 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

<4> 宇治税務署管内に事業所を有すること。

<5> 仕入金額が二、〇〇〇万円以上六、六〇〇万円未満であること。

右仕入金額の範囲は、上限を原告の昭和六〇年分の仕入金額の約一五〇パーセント、下限を原告の昭和五八年分の仕入金額の約五〇パーセントとしたものである。

<6> 対象年分の所得税について、不服申立又は訴訟が係属中でないこと。

(2) 当該基準により抽出された同業者は原告と業種、営業地域、事業形態及び事業規模等の点において類似性を有し、本体係争各年を通じて事業を経営している安定した業者であり、また、その金額等の算定根拠となる資料はすべて正確なものである。また、右同業者の選定は、大阪国税局長の発した通達に基づき被告が機械的に抽出したもので、その選定に当たつて恣意の介在する余地はない。

(3) したがつて、被告が、右により選定された同業者の売上原価率、算出所得率、人件費率を用いて原告の本件係争各年分の事業所得を推計したことは合理的である。

(四) 原告の本件係争各年分の事業所得は、前記(二)のとおりであるから、その範囲内でなした本件各更正処分はいずれも適法である。

三 原告(被告の主張に対する認否)

(一) 被告の主張(一)は争う。

(二) 同(二)の事実のうち、(1)売上原価、(5)建物減価償却費、(6)利子割引料及び(7)事業専従者控除額をいずれも認め、その余の事実を否認する。

(三) 同(三)は争う。

第三証拠 <略>

理由

一 請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二 原告は、被告のなした調査手続が違法であり、この違法な調査に基づく本件各処分もまた違法であると主張するので、まずこの点について判断する。

1 原告は、本件各処分の前提となる税務調査には、調査理由がなく、また、原告の同意を得ないまま反面調査を行なつた違法が存すると主張する。しかし、税務調査は、具体的事情に照らして客観的な必要性があると判断されるときはこれを行なうことができ、また、納税義務者の取引先に対する質問調査(いわゆる反面調査)を行なうか否かも、質問検査の必要性と納税義務者の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、税務職員の裁量事項であるところ、<証拠略>を総合すれば、原告が提出した本件係争各年分の確定申告書は、いずれも所得金額の記載はあるものの、その計算根拠となる収入金額及び必要経費の記載を欠くものであり、被告は昭和六一年四月九日以降七回にわたりその所属職員を原告方へ赴かせ、税務調査への協力を要請して帳簿書類の提示を求めたが、原告は第三者の立会を求めるなど調査に協力せず、帳簿書類の提示にも応じなかつたことが認められるのであつて、これらの事実に照らすと、被告が行なつた税務調査には客観的に必要性が認められ、かつ、反面調査を行なつたことも社会通念上相当であると認められる。

2 また、原告は、被告の調査が、原告を民主商工会から脱会させる目的で行なわれたもので憲法三一条、二一条に反した違法があるから、本件更正処分は違法であると主張し、原告本人尋問の結果中には、調査に当たつた税務職員が「宇治商工会議所からなぜ民商に移つたかよく聞いてくるように上の人からいわれている。」、「民商やめたら(納税額が)六〇万円くらいになるかもわからん。」と発言し、あるいは、税務職員が「あんたらの姿勢をきいているんですわ。」と発言したのに対して、原告の妻が「民商やめることですか。」と聞いたところ、「まあそうですね。」と答えた旨の供述部分がある。しかし、たとえ、このような事実が認められたとしても、それは税務職員が税務調査にあたつて、付随的に特定の団体の会員に対してその団体からの離脱をしようようするもので、そのこと自体の違法違憲性をいうのは格別、この事実から直ちに更正処分による所得税賦課処分の違法が生ずるものとはいえない。更正処分の違法をいうためには、被告の調査が実質的にその必要性もないのに、専ら原告を民主商工会から脱会させる目的で行なわれたもので、税務調査として行なわれた本件質問調査権の行使が著しい濫用に当たることを主張立証することを要するところ、本件全証拠によつてもこれを認めるに足りず、かえつて、前認定のとおり被告が本件税務調査を開始するにつき客観的な必要性があつたと認められる。したがつて、たとえ本件で税務職員に調査に付随した前示言動があつたとしても、これにより、被告の本件各処分及び過少申告加算税賦課処分を違法とすることはできない。

3 したがつて、その余について判断するまでもなく、原告の主張はいずれも理由がない。

三 推計課税の必要性

前記のとおり、原告の提出した本件係争各年分の所得税の確定申告書にはいずれも所得税算定の基礎となる必要経費等の記載がなかつたこと、被告部下職員が、昭和六一年四月九日以降七回にわたり原告方へ赴き、税務調査への協力を要請して帳簿書類の提示を求めたが、原告はこれに対して非協力的で帳簿書類を提示しなかつたことが認められ、これらの事実によれば、原告が被告の質問調査に対して帳簿書類を提示せず、かつこれに代わる資料を何ら示さなかつたため収支の状況が明らかにできないものであるから、被告が原告の本件係争各年分の所得税を算定するについて推計課税の必要性が認められる。

四 推計課税の合理性

被告の主張(三)の推計課税の合理性について検討するに、<証拠略>を総合すると、以下の事実が認められ、他にこの認定を覆すに足る証拠がない。

1 大阪国税局長は、推計により原告の所得金額を算出するのに必要な同業者を選定するため、原告の事業所所在地を所轄する被告に対し、青色申告により所得税の確定申告をしている者のうちから、本件係争各年を通じて、新聞小売業(主として一般紙を扱っている者)を営んでいる者であつて、その他の業種目を兼業しておらず、仕入金額が二、〇〇〇万円(原告の昭和五八年分の仕入金額の約五〇パーセント)以上六、六〇〇万円(原告の昭和六〇年分の仕入金額の約一五〇パーセント)未満であること、対象年分の所得税について、不服申立または訴訟が係属中ではないことの各条件に総て該当する者を抽出することを求め、一八名の対象者(同業者)が得られた。

そこで、被告は、右の同業者について、本件係争各年分の売上金額、仕入金額、一般経費、給料賃金及び外注費を調査した上、同業者の売上原価率、算出所得率、人件費率を求め、その結果は別表4ないし6のとおりであつた。

2 右認定の事実によれば、同業者の売上原価率等算出の対象となつた同業者の選定基準は、業種の同一性、事業場所の近接性、業態、事業規模の近似性等の水で同業者の類似性を判別する要件としては合理的なものであり、その抽出作業について被告あるいは大阪国税局長の恣意の介在する余地は認められず、かつ、右の調査は青色申告書に基づいておりその申告が確定していることから正確性が高く、その抽出数も同業者の個別性を平均化するに足るものということができる。したがつて、右同業者の売上原価率、算出所得率、人件費率を基礎に原告の所得を推計することに合理性があるというべきである。

五 所得額の算出

被告の主張(二)の原告の本件係争各年分の事業所得金額について検討する。

1 別表2<2>の欄に記載の売上原価の額はいずれも当事者間に争いがない。

2 売上金額

前記の各売上原価を、前掲四1記載の同業者の各売上原価率の平均値(売上原価率)で除して計算すると、原告の売上金額は、別表2<1>の欄に記載のとおりとなる。

3 算出所得金額

前記の売上金額に、前掲四1記載の同業者の各算出所得率の平均値(算出所得率)を乗じて計算すると、原告の算出所得金額は、別表2<5>の欄に記載のとおりとなる。

4 人件費

前記の売上金額に、前掲四1記載の同業者の人件費率の平均値を乗じて計算すると、原告の人件費は、別表2<6>の欄に記載のとおり(ただし、昭和五八年分は、一、四九〇万五、六八八円)となる。

5 別表2<8><9>及び<11>の欄に記載の建物減価償却費、利子割引料及び事業専従者控除額はいずれも当事者間に争いがない。

したがつて、原告の本件係争各年分の事業所得金額は、前記の算出所得金額から人件費、建物減価償却費、利子割引料及び事業専従者控除額を除いた額である別表2<12>の欄に記載のとおり(ただし、昭和五八年分は七七一万〇、八五五円)と認められる。

六 よつて、本件各処分は、いずれも右認定の原告の係争各年分の各事業所得金額の範囲内でなされた適法なものであつて、過大認定の違法はなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴訟八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川義春 菅英昇 堀内照美)

別表1ないし6 <略>

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